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フユシャクガ特集
 

 
フユシャクガ(冬尺蛾)の仲間はその名の通り、冬を中心に活動する変わった蛾です。
地味ではありますが、それが冬という厳しさを感じさせ、また水墨画のような上品な美しさもあります。
フユシャクガは冬に活動するというだけではなく、他にも♀には翅がないなど特筆すべき興味深い生態を持ってます。
何とか身近に生息するフユシャクを探して紹介種も揃ってきましたので、フユシャクについて解説してみたいと思います。
今年の冬は是非フユシャクを探しに出かけてみてはいかがでしょうか?
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フユシャクとは

フユシャクとは冬に活動するシャクガ科の仲間の総称で、フユシャク亜科(14種),エダシャク亜科(15種),ナミシャク亜科(14種)が知られております。

フユシャクの仲間の特徴は冬に活動することですが、更に特筆すべき生態として、♀に翅が無い或いは翅が極端に短くいずれも飛ぶことができないことが上げられます。♀は飛べない代わりに尾部よりフェロモンを出して♂を呼ぶコーリングを行います。
♀の翅は何故退化してしまったのかはっきりとしたことは分かっていませんが、天敵の少ない冬に活動することで飛んで逃げる必要がなくなったことと、産卵を行なう重たい♀にとって冬の寒さでは♂よりも飛翔することは困難なので、飛ぶのを止めて動かずにフェロモンで♂を呼ぶことに徹したのだと考えられます。

フユシャクの仲間は決して珍しい蛾ではなく、全国の雑木林で普通に見られます。あまり人目に付かないのはほとんどの種が夜行性で昼は落ち葉の下や木々の隙間などに上手く隠れているからで、夜雑木林に行ってみると複数の♂が飛び交う姿が見られることでしょう。更に木の幹を注意深く観察していくと交尾中のフユシャクも見ることができます。
フユシャク亜科
クロテンフユシャク
関東では本種は12月中旬から3月上旬まで平均的に発生するが、山地では11月中旬~12月上旬まで現れて、一度姿を消し、4月中旬~5月上旬に再び現れるらしい。
クロバネフユシャク
シロオビフユシャクとよく似ているが、本種は黒味が強く明らかに小さい。
1月中旬から2月下旬まで見られる。
写真はお寺の門柱に止まっていたもので、見つけたのはこの1匹だけなのでやや珍しいかもしれない。
シロオビフユシャク
11月下旬から3月上旬まで見られる。最盛期は12月下旬。
私が見たのは1月19日に自宅の外灯に飛来したこの1匹のみ。
エダシャク亜科
ヒロバフユエダシャク
やや遅く、2月中旬~3月上旬に出現する。
模様は右のシロフフユエダシャクと似ているが、大きさや外横線の形状で区別できる。
シロフフユエダシャク
関東では1月下旬から早春に出現する。
翅の色は黒っぽいものや赤味を帯びるものなど個体差がある。
チャバネフユエダシャク
本種の翅の模様は個体によって大きく変異します。
地元鎌倉では1月に入ると本種が外灯に飛来するようになる。
ナミシャク亜科
クロオビフユナミシャク
本種は早朝、民家の周囲の塀に止まっていたこの1匹を見つけただけ。左のコナミフユナミシャクよりも翅の前縁が直線的。

♀の生態

クロテンフユシャクの交尾
上が♀。下が♂。♂は♀のフェロモンを嗅ぎつけてすぐに♀を発見することができる。
フユシャクの最も大きな特徴として♀の翅が無いか著しく縮小していることです。
飛べない代わりに♂を呼ぶコーリングを行います。
丸っこい体形は表面積が少なく、防寒に大変有効と言われており、蛾とは思えない姿は耐寒性に特化して進化した結果と言えるでしょう。
コーリングとは尾部から黄色いフェロモンのうを出したり入れたりしてフェロモンを放出し、♂を呼ぶことを言います。
♂は♀のフェロモンを嗅ぎながら低空をヒラヒラと弱々しく飛んで♀を探します。
日中は落ち葉の下に隠れていることが多いようで、一日かけて探しても生きた♀は1匹見つけるのが精一杯でした。
しかし、林縁の柵などにあるクモの巣に引っ掛かって死んでいるチャバネフユエダシャクの♀は複数見つけていますので、夜間は普通に見られるはずです。夜、サクラやクヌギなどがある雑木林に行ってみると驚くほど簡単に交尾中の♀を見つけることができました。
ナミシャク亜科とナミシャク亜科、更にエダシャク亜科の一部の種は日没後、すぐに活動を開始しますが、チャバネフユエダシャクでは日没後2時間以上経ってから深夜にかけて活動しているそうです。
クロテンフユシャクの♀
翅が完全消失していてとても蛾とは思えない。尻部には産卵時に保護するための毛の束が付いている。
ヒロバフユエダシャクの♀
翅は短いもののシロフフユエダシャクよりは長い。
背面の暗灰色部や両翅の黒い横線も特徴的。

餌を摂らない成虫

フユシャクの仲間は成虫が餌を一切摂りません。
飲まず食わずで1ヶ月ほど生きることができます。エサを摂らない理由は樹液や花の蜜などのエサが冬場は少ないこともあると思いますが、他には水分を摂取することによって冬の寒さによる凍結死してしまうからではないかと考えています。更に、捕食される危険の多いエサの摂取を避けることができること、成虫時の重要な繁殖行動に専念できることなどの利点もあります。
成虫時のエネルギーは幼虫時に摂取し、体内に蓄えることにより、成虫は何も食べずに1ヶ月も活動することができます。
ただし、このように口吻が退化しているのはフユシャクだけでなく、ドクガ科シャチホコガ科カレハガ科カイコガ科ヤママユガ科の仲間と他の一部の種で口吻が退化しています。
エグリヅマエダシャク
フユシャク以外のシャクガ科の仲間は長い口吻があり、水や樹液などを摂取することができる。

ライフサイクル

フユシャクの仲間はすべて1年1化です。
成虫の出現期は種類によって異なりますが、平地ではだいたい11~3月までの期間内で活動、産卵します。
卵は平地では3~4月に孵化し、幼虫は緑色のシャクトリムシで春に食草を食べて成長し、10~15日もすれば土中に潜り、蛹化、そのまま出現期まで休眠します。








天敵

冬に活動するからといってフユシャクにも天敵がいない訳ではありません。
日中に林道の木柵の隙間などにあるクモの巣をよく見てみると、引っ掛かって死んでいるフユシャク達が見つかります。
一年中活動しているオオヒメグモカレハヒメグモなどの網に掛かって死亡或いは捕食されてしまうケースが多いようです。
更に雑木林に多い大型のクモであるコアシダカグモにとっても絶好の獲物となっています。
クモの巣に引っ掛かって死んでいるウスバフユシャク
雑木林内の木柵の隙間にあったこのクモの巣だけで3匹も引っ掛かって死んでいた。
冬場も活動しているカレハヒメグモ
木柵や樹皮の隙間などに巣を造る本種はフユシャクの仲間をエサにしている可能性が高い。
雑木林に生息する大型のコアシダカグモ
本種は夜行性で一年中活動するため、フユシャク達は格好の獲物となっている。

冬に見られるその他の蛾

あまり知られていませんが、冬に見られる蛾はフユシャクだけではありません。
冬にしか見られないハマキガ科では、フユシャクに似たハイイロフユハマキ(別名フユシャクモドキ)の他、天気の良い日には活動する小さなハマキガのプライヤハマキも見られます。
ヤガ科ではキリガ類の仲間で晩秋から冬場,早春にかけて見られる種が複数おり、灯火には飛来せず糖蜜採集で得られることで知られています。
その他にも木の幹に止まってそのまま越冬するキノカワガカレハガ科のウスズミカレハ、シャチホコガ科のクシヒゲシャチホコがいます。
木の幹に擬態して越冬するキノカワガ
木の幹に生えているコケも表現して実際に似た色彩の幹に合わせて止まっているため、見つけにくい。
夜間、糖蜜トラップに来たホシオビキリガ
灯火には集まらず、糖蜜で得られる。
夜間、糖蜜トラップに来たナワキリガ
本種も同様糖蜜トラップで得られる。負の走光性の為、光を当てると逃げることが多い。

フユシャクを探す

フユシャクの多くは夜行性なので、夜に雑木林に行くと簡単に見つけることができます。
しかし、寒い上に危険ですので、難易度は上がりますが、日中に林道などを歩きながら探すのが無難かもしれません。
夜にたくさん見られたフユシャクは日中は大半が落ち葉の下や木の陰などに身を潜めていますので、見つけるのは難しいです。しかし、たまに木の幹に止まったままでいる個体も見られますので、念入りに探していればきっと見つけることができます。
昼行性のクロスジフユエダシャクは日中に弱々しく飛翔するので見つけやすいです。
林道の標識の裏に隠れるウスバフユシャク
林縁の看板などの人工物の隙間などに隠れていることもよくあり、見つけやすい。