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  ヤエヤマサソリ累代飼育マニュアル
 

小型ながらも迫力あるハサミを持つヤエヤマサソリ
日本に生息する2種のうちの1種。
 
はじめに
サソリというと多くの方が危険な生き物と思われ敬遠しがちですが、実際に危険なサソリは全1600種のうち20〜30種のみとされていて危険な種は大変少ないことが分かります。
その内、日本に生息するサソリ2種(ヤエヤマサソリLiocheles australasiae),マダラサソリIsometrus maculatus))はどちらも毒性が非常に弱く、特にヤエヤマサソリは毒がないと言っても過言でないほどで、エサとなる小型の虫にしか効きません。毒針も大変小さく、人の皮膚も刺すことすら困難です。
この小型で親しみやすいヤエヤマサソリの魅力と累代飼育法をご紹介したいと思います。
 
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    ヤエヤマサソリとは
 
ヤエヤマサソリとは東南アジア,オセアニア,ポリネシアと世界に広く分布する森林性の小型サソリです。
体長は3〜4cmですがこれは尻尾のように見える後腹部も含めて伸ばした状態での話で、実質2cmほどの大変小さなサソリです。
日本には八重山諸島のみに生息しています。
本種の特筆すべき生態は♀だけで繁殖するという単為生殖にあります。オーストラリアでは♂も発見されていますが、日本やマレー半島,東南アジアの個体群からは未だ♂が発見されておりません。恐らく元々樹皮裏に隠れているような見つけにくいサソリなので、極稀に発生しているものと思います。
 
本種は小型で非常におとなしいサソリで、ミニプラケースなどの小さい容器で気軽に飼育することができ、サソリ飼育入門としても最適です。それでは、本種の飼育についてご紹介いたしましょう。
 

 
    成体の飼育
 
飼育ケース
成体の体長は3〜4cmと小型なので、ミニプラケースで十分です。多数飼育されている場合は同じケースに複数飼育しても問題ありません。万が一の事故に備えて、プリンカップなどで単独飼育するのもよいかもしれませんが、毎日の餌やりなど手間が掛かり過ぎてあまり現実的とは言えません。隠れ家を多くした環境で複数同時に飼育がよいと思われます。
本種は乾燥に弱いので、湿度を保つため、保湿シートや保湿板などの中蓋をするといいでしょう。ただし、蒸れないよう注意してください。
マット
ピートモスが最適。マットに潜ったりしないので、1〜2cmほどで十分。いつも表面が濡れているくらいの湿気を保ちましょう。
隠れ家
本種は本来、樹皮裏や朽木内などの狭い隙間に棲息していますので、樹皮やコルクバーグ,ウッドチップなどを立てた状態で重ねることでよい隠れ家となります。
水分
多湿を好むので、常時じめじめしている状態を保ちましょう。水の入れた小さいケースを入れて空中湿度を高めるのもよい方法ですが、本種が溺れないようにミズゴケを入れるなどの工夫が必要です。
飼育温度
南方系の種ですから、温度は高いほうが調子は良いと思われます。夏場は30℃以上あるほうが本種にとっては調子が良いと思いますが、閉め切った部屋などに放置すれば当然40℃以上になってしまい危険ですので、極端な高温には注意しましょう。
冬場はまだ飼育経験がないので推測になりますが、10℃を下回らない程度に管理できれば大丈夫と思われます。ただ、エサは与えないほうが無難です。というのは、低温になって消化できなくなると死んでしまうことがあるからです。
エサ
エサは生きたものを与えます。コオロギの幼体やヤスデの仲間がよく食べてお勧めです。少数飼育なら餌用コオロギを購入せずとも、小さな蛾の翅を取ったものなど比較的柔らかい虫は餌となります。
栄養価の面では、やはりコオロギが最も良いと思いますので、可能であればコオロギを主に、時々野生の虫類を与えるとバランスがよくなると思います。
餌は成体であれば週1回でも飼育可能なようですが、1,2日に1回1匹与えるのがよいと思われます。できるだけいろいろな種を与えて栄養が偏らないようにしたほうがいいでしょう。また、餌となるコオロギなどを飼育する場合は、餌自体にもできるだけ良質な餌を与えて管理しましょう。餌用コオロギ販売店では同時に植物性の良質な餌も販売されているところもあります。

ピートモス
ピートモスは保湿性に優れ、コバエも発生しない。
100円ショップなどで手軽に購入できる。大体2L100円,4L400円程度。

飼育ケース
ミニプラケースでも単独飼育では広すぎるくらい。樹皮などを重ねておくと良い棲み家となる。多湿を好むので、小まめに霧吹きで湿気を保つ。念のため、私は空中湿度を高めるため、フイルムケースなどの小さな容器にミズゴケと水を入れている。ミズゴケは万が一、本種が溺れないようにするためのもの。無くても飼育可能。
 

 
    繁殖
 
お産
飼育していて、明らかに太ってきた場合、卵ができた可能性があります。
体節間の膜が白く見えている場合はまず間違いなく妊娠しています。
そのまま飼育すると10日前後で幼体を産みます。
幼体の数は親の栄養状態やサイズによって影響し、10〜30匹までバラつきがあるようです。たくさんの幼体を得たいのであれば、こまめに新鮮な生き餌を与える必要があります。
出てきた幼体は真っ白で皆、親サソリの背中に乗ってじっとしています。この姿を見る時が累代飼育する上で一番の醍醐味と言えます。
幼体はそのまま1週間ほど経過すると、1回目の脱皮をした後に、親から離れます。親は幼体を保護している期間、餌は採りませんので、与える必要はありません。

卵を持った本種
腹部が明らかに膨らんでいる。

幼体を抱える親サソリ
産まれたばかりの白い幼体は皆親サソリの背中に集まる。
脱皮
幼体は産まれてから1週間程で1回目の脱皮をして、親から離れていきます。この時点ではまだ幼体は捕食しませんが、数日経過すると餌を食べ始めるようになります。
脱皮した幼体はやや赤味を帯び、鋏も大きくなり、サソリらしいスタイルになります。
親から完全に離れたら、親を別のケースに隔離し、幼体飼育を開始します。
親離れをした後も親を隔離しないと幼体を食べて減っていきますのでご注意ください。

生まれたばかりの幼体
鋏はまだ非常に小さく、捕食もしない。

脱皮した幼体
鋏が大きく発達している。白いゴミのようなものが、抜け殻。
 

 
    幼体の飼育
 
飼育環境
産まれた時の環境でそのまま飼育するのがベストですが、多数の個体を同時に飼育することになりますので、隠れ家は多くしたほうが良いでしょう。隠れ家の項目で説明した通り、樹皮を重ねるなど隙間を多くすることで狭いケース内を有効に利用することができます。
その他の環境は成体飼育時と同じです。共食いも懸念されますが、飼育している限りでは喧嘩すらせずに餌にだけ反応していますので、飢えさせなければ問題ないと思われます。
ただし、乾燥や蒸れには成体よりもずっと弱いので、細心の注意が必要です。
幼体飼育を最も困難にさせているのが、餌の確保だと思います。あらかじめワラジムシダンゴムシを飼育して産まれたばかりの幼体を与えるとよい餌となります。ただし、ダンゴムシは固い上に丸くなるので食べられないことが多いです。更にコオロギなどの肉片を与えても食べますが、幼体の前にそっと置いてやるなど手間が掛かります。しかし、10日ほど与えていると大きくなり、餌用として販売されている胡麻粒サイズのイエコオロギの幼虫も食べられるようになり、ここまで来ればまず安心でしょう。ただし、餌用コオロギもどんどん成長しますので、あまり大量に購入されないよう注意してください。でも、大きくなってしまったコオロギはそのまま種親として飼育し、繁殖させることも可能です。(イエコオロギの場合、やや湿った程度のマットで管理していれば、マット中に産卵し、3週間程で孵化してきます。)
本種の幼体は樹皮等の隙間にいますので、樹皮などが接しているケース側面から観察することができ、コオロギを捕食できるようになる頃から、鋏で捕らえてから毒針を使うようになりますので、捕食シーンは大変楽しめます。

幼体飼育ケース
樹皮の隙間や、ウッドチップの下などに隠れている。
このように樹皮を立てておくと、ケース側面から幼体が観察できて面白い。

7mm程に成長した幼体

イエコオロギの幼虫を捕食する幼体
コオロギは大好物で、積極的に捕食している。

成長した幼体
1回目の脱皮から2週間ほどの幼体。
まだ2回目の脱皮はしていないが、腹部が非常に伸びてきた。
脱皮
親離れした2齢幼体飼育を開始して、順調に飼育すると1ヶ月少々で3齢幼体へと脱皮します。ここで脱皮時に他の幼体に食べられないかという不安がありますが、本種に関しては飢えていない限りまったく心配はいらないようで、群れの中でも堂々と脱皮しているところも観察しております。
脱皮のシーンは目を見張るものがあり、見ていてワクワクします。
脱皮時の3齢幼体の体表には艶はありませんが、脱皮が完了すると艶が出てきます。そして以前よりも体格が良くなり、特に鋏が太くなります。

脱皮中の3齢幼体
本種は大人しいサソリなので、群れの中でも共食いしない。

脱皮直後の3齢幼体
ここまで脱皮すると徐々に光沢が出てくる。

3齢幼体
脱皮後約1日後の個体だが、脱皮前の窮屈そうだった体節間膜も伸びておらず、餌を採るごとにどんどん大きくなる。

2齢の脱皮殻
上手く脱皮するので、脱皮殻はそのままの姿で残る。
3齢幼体もやはり1ヶ月少々(経験では約41日間)で、4齢幼体へと脱皮しました。もちろん脱皮までの期間は飼育温度や餌やりで大きく影響しますので、ここ紹介している期間は、適温で毎日餌やりをした場合の経験に基づきます。
加齢するに従い、餌の大きさにも余裕が出てきますので、むしろ2齢幼体時よりもより飼育し易くなります。
4齢は私の飼育下では冬を跨いだためか最も期間が長く、4ヶ月程掛かりました。
5齢で終齢で、飼育下では2ヶ月程で成体となりました。
成長のスピードは、飼育温度や餌の量などで大幅に変わります。より早く成体を目指すのであれば、30℃前後で毎日小まめに餌やりをすると効果的です。

3齢幼体(左)と4齢幼体(右)
同じ時期の3齢幼体も脱皮間近なので、体節間膜が伸びきっているのが分かる。

4齢幼体
5齢間近で体節間膜が伸びきっている。

5齢幼体
石垣島での野生個体。

成体
脱皮したての色が淡い成体。鋏が格段に大きくなった。
1週間程は餌を食べずにじっとしている。
 

 
    飼育上の注意点
 
飼育環境の管理
本種の飼育は簡単です。失敗した場合、一番疑われるのは湿度管理だと思います。
前述したことではありますが、本種の飼育では最も重要なポイントになりますので、改めてご説明します。
本種は多湿を好み、乾燥には非常に弱い面がありますので、常に湿った環境を維持し、尚且つ蒸れないように通気性も確保する必要があります。プラケースでの飼育の場合はクワガタの飼育などで使用されている保湿・防虫用の中蓋が良く、それでも乾燥するようであれば更にメッシュシートなども挟み、蒸れず、乾燥もしにくい状態を保ちましょう。
また、湿った環境では食べ残しが腐るスピードが早く、衛生上よくありませんので、食べ残しや死骸は毎日チェックして取り除きましょう。
脱走
サソリの飼育は過去に、サソリマニアが飼育していた猛毒を持つイエロー・ファットテール・スコーピオンが脱走した事件が問題となり、イエロー・ファットテール・スコーピオンが属するキョクトウサソリ科の仲間が国内に生息するマダラサソリを除きすべてが特定外来生物被害防止法によって、輸入および飼育が禁止となってしまいました。
本種はプラケース側面を登れませんが、狭い場所であれば簡単にすり抜けてしまいます。
このような悲劇を二度と起こさないために、サソリの仲間を飼育するに当たって、絶対に脱走させないようお願いします。
 

 
    最後に
 
本種を飼育すると、サソリのイメージが変わり、より親しみやすい存在になると思います。
産まれた1匹1匹がまた幼体を産み、長く楽しめる良いペットとなることでしょう。
私も長い期間飼育を続けてきましたが、お産した時の喜び、幼体を育てる楽しさ、成体のカッコよさ、どれをとってもペットとしての素質は十分過ぎるほどありました。
前述した通り、本種は大変小さなサソリで無害で、人の皮膚を刺すことすらままならないという安全な生き物です。
でも、サソリと言うだけで多くの方が猛毒をイメージしてしまい、飼育したいという子供がいても、親に反対されてしまうというような話をよく聞きます。
大人としても、子供に恥ずかしくないよう偏見だけで判断せず正しい知識を持っていただきたいと思います。
 
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