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  アブラムシ特集
 

 
はじめに
アブラムシは害虫として有名ですが、大変奥が深い昆虫で観察対象としてもってこいな昆虫です。
今回は意外と知られていないことが多いアブラムシについて特集してみたいと思います。
 
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    アブラムシとは
 
アブラムシはカメムシ目ヨコバイ亜目のアブラムシ科に属し、日本には約700種ものアブラムシが生息しています。
アブラムシの仲間は皆、小型で植物の汁を吸って生活しています。
植物によって見られるアブラムシの種類が異なり、体色も様々です。
有翅型や無翅型、また季節によっても形態が異なるなど観察対象として大変面白い昆虫ではないかと思います。
 

 
    各部の名称
 
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    体色と斑紋
 
体色
アブラムシの体色は種類によって様々ですが、同種であっても色彩変異が見られ、農業害虫として知られるモモアカアブラムシでは特に顕著で、大きく緑色系と赤色系に分かれますが、これはバッタなどの他の昆虫類に見られる緑色型と褐色型にあたります。
アブラムシの体色変異はリケッチエラ属の細菌に感染すると、体の色が赤から緑に変わることが2010年11月19日付の米科学誌サイエンスで発表されています。


斑紋
アブラススキヒゲナガアブラムシ(無翅型)
背面の黒色部は角質化によるもの。
アブラムシの斑紋には、内容物が透けて見えることによる斑紋と、角質化による斑紋白色ロウ質物の分泌による斑紋の3種類があります。
角質化による黒い硬皮板は、頭部から胸部、腹部背面の一部に見られ、鎧のような役割りがあります。特に有性世代に多く見られます。
一方、内容物が透けて見える種類は角質化が見られず、透明度が高いことや摂取する養分と体色が異なることによります。
白色ロウ質物は、主に水分を弾く性質があり、雨水による窒息死や自分が出す排出物の付着による感染症などから身を守ることができます。
この分泌物は脱皮直後ではまだ分泌されていない為、体色が異なります。

アブラチャンコブアブラムシ(無翅型)
オレンジ色の斑紋は内容物が透けて見えているもの。

タケノアブラムシ(無翅型)
白い模様は分泌物によるもの。
 

 
    形態
 
アブラムシは同じ種類でありながらライフサイクルのステージによって別種のように異なる形態を持ちます。
有翅型と無翅型
翅のあるタイプを有翅型、翅のないタイプを無翅型といいます。
有翅型は植物から植物に飛んで新たな繁殖地に移動することができます。ただし、飛行能力は低く、風に乗りながら弱々しく飛翔します。
無翅型は翅がない分、生育するスピードが早く、ひたすら幼虫を産み続けてコロニーを形成するのに適しています。
また、同じ有翅型・無翅型でも以下で説明する単性世代や有性世代があり、見た目も異なります。

有翅型のハゼアブラムシ
別の場所の植物に移動することができます。

無翅型のアオキコブケアブラムシ
翅がない分、移動能力はないに等しいものの、短期間にコロニーを作る能力に優れています。
胎生♀(胎生雌虫,単性世代の♀)
交尾をせずに幼虫を産み続ける単性の世代です。主に春から晩夏にかけて見られ、大きなコロニーを形成します。胎生♀から生まれる幼虫は皆、親と同一の遺伝子を持つクローンです。
一次寄主と二次寄主を移動するタイプは有翅型で、飛んで移動します。

単性世代のミツバウツギフクレアブラムシ(有翅型)

単性世代のニワトコヒゲナガアブラムシ(無翅型)
♂(雄虫,有翅型♂,有性世代の♂)
有性世代で、翅があり卵生♀と交尾することができます。単性世代に比べ、腹部や胸部が角質化している場合が多く、同じ有翅型でも別種のように異なる場合があります。
主に秋に出現します。

サルスベリ上のホオノキヒゲマダラアブラムシ
単性世代の有翅型とは別種のように異なる。

コナラ上のアザミクギケアブラムシ
単性世代の有翅型とは別種のように異なる。
卵生♀(卵生雌虫,有性世代の♀)
有性世代で、翅がなく♂と交尾し卵を産みます。主に秋に出現します。
♂同様、体表が角質化する傾向があります。
ただし、アブラムシの分布域は南下するに従って単為生殖のみになる傾向が強く、南西諸島では有性世代は見られません。

サルスベリ上のサルスベリヒゲマダラアブラムシ
普段有翅型しか見られないマダラアブラムシ亜科の仲間でもこの世代は無翅型になる。

コナラ上のクヌギトゲマダラアブラムシ
一般的に単性世代より大型で腹部背面が角質化する場合が多い。
幹母

虫コブ内部のサクラコブアブラムシの幹母
春に越冬後の卵から産まれるやや大型のアブラムシです。
翅がなく、胎生♀を産みます。
兵隊アブラムシ

ヒエツノアブラムシの兵隊型幼虫
ヒラタアブラムシ亜科とワタアブラムシ亜科の仲間にのみ見られる特殊な形態です。
胎生♀が通常の胎生♀とは別に兵隊アブラムシも産みます。その名の通り、外敵と戦う勇敢な形態で、アブラムシとは思えないがっしりとした太い脚で外敵にしがみ付き、太い口針で刺して撃退します。角で攻撃する世代がある種もおり、攻撃方法は一次寄主と二次寄主によって異なる場合があるようです。
兵隊アブラムシは1,2齢幼虫までで生長が止まり、幼虫は産みません。
胎生♀と同じ遺伝子を持ちながらここまで形態の異なる虫を生み出せる点もアブラムシの優れた生態の一つです。
 

 
    ライフサイクル
 
アブラムシは季節によって形態も見られる植物も変化します。
ここでは季節を追って解説します。
越冬卵から幹母が孵化し、胎生♀を次々と産みます。
二次寄主に移動するタイプは、有翅型の胎生♀で移動します。

チンゲンサイ上のニセダイコンアブラムシのコロニー
大きい個体が幹母で、胎生♀を次々と産みます。

有翅型のニワトコヒゲナガアブラムシ
有翅型は二次寄主に移動して繁殖を続ける。
胎生♀で生活します。植物は夏場、生長が止まり養分である窒素含有量が少なくなる為、小型化したり越夏型と呼ばれる形態で休眠状態に入るものがあります。
晩夏になると有翅型が産まれて、一次寄主に戻る種もいます。

短翅型のクリヒゲマダラアブラムシ
夏を乗り越える為、小型化して翅も半分以下に萎縮して飛ぶこともできない。

越夏型のモミジニタイケアブラムシ
扁平で大変小さい状態で栄養価の少ない夏を乗り切る。
胎生♀が有性世代を産み出し、有性世代が交尾・産卵します。
ただし、分布が南下するほど有性世代は少なくなっていき、南西諸島では単性世代しか見られなくなります。

イタヤカエデ上で交尾するモミジニタイケアブラムシ

産卵中のクロトゲマダラアブラムシ
樹皮の隙間などに産卵する。

コナラ上のクリオオアブラムシの卵と親虫の死骸
有性世代の♀は交尾を済ませた後、産卵します。
卵は樹の幹や樹皮の隙間に産み付けるタイプや、バラバラと産み落とすタイプがあります。
多くは卵で越冬しますが、一部胎生♀のまま越冬する系統もいます。
南西諸島では有性世代はなく、年中活動しています。
 

 
    分類
 
同じアブラムシ科でも、特徴によって複数の亜科、族に分けられています。
アブラムシ亜科
最も大きいグループで、角状管がよく発達していることや、触角の末端突起が基部より長いことなどの特徴があります。
アブラムシ亜科では以下の3族に分けられています。
アブラムシ族
寄主転換をほとんどしないアブラムシ亜族とバラ科を一次寄主とするクビレアブラムシ亜族が含まれます。
国内では約76種が知られています。




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ヒゲナガアブラムシ族
主にバラ科とスイカズラ科を一次寄主としているグループで、種類が多く国内では275種に及びます。
特徴としては無翅型では触角第3節に二次感覚板があり、額瘤が発達しており、有翅型では通常、腹部背面に硬皮板を持ちます。




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マダラアブラムシ亜科
通常、無翅型が見られず有翅型で、角状管は切り株状、尾片は短く握りこぶし状などの特徴があります。
寄主転換せず、大部分が落葉広葉樹を寄主としています。
マダラアブラムシ族
カエデ類、スゲ類、以外の落葉広葉樹とタケ・ササ類,マメ科を寄主とする本亜科最大のグループです。




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カマガタアブラムシ族

カエデ類を寄主とするグループで、前脚腿節が太く発達しています。
カサゲアブラムシ族
スゲ類を寄主とするグループで、研究がまだ進んでおらず日本ではまだ黎明期です。
オオアブラムシ亜科
大型種が多くほとんどが落葉広葉樹と針葉樹を寄主としているグループです。
触角は短く体長の約半分で、角状管は噴口状、尾片は半円形をしています。
寄主転換はしません。
国内では52種が生息し、オオアブラムシ族,マツオオアブラムシ族,スネナガオオアブラムシ族に分かれます。
オオアブラムシ族
広葉樹(コナラ類,カエデ類など)を寄主としている大型のアブラムシです。
広葉樹の葉や枝に見られるオオアブラムシの他、蟻道内に棲むクチナガオオアブラムシの仲間も含まれます。




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マツオオアブラムシ族
針葉樹(マツ類,カラマツ類,トウヒ類など)を寄主とするアブラムシです。




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ケアブラムシ亜科
腹部背面や側面に刺毛が生えています。
ニタイケアブラムシ族では越夏型の扁平な形状をした幼虫が出現するのが特徴です。


ミツアブラムシ亜科

情報不足で詳細は不明ですが、国内ではクヌギミツアブラムシが生息しており、頭部と前胸が合着しているという特徴があります。
ミズキヒラタアブラムシ亜科

和名の通り、ミズキ類を一次寄主としています。
国内ではミズキヒラタアブラムシ族のオカボキバラアブラムシが知られ、イネ科を二次寄主としており、イネ科のみで生活する系統も知られています。
ケクダアブラムシ亜科
コナラ類とシイノキ類を寄主としており、寄主転換はしません。
国内では20種が知られています。
ケクダアブラムシ族
角状管が太くて長く、全身に刺毛があるなど大変特徴的なグループです。


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エダトゲアブラムシ族

コナラ類のみを寄主とします。
腹部背面と側面に枝別れした棘状の突起が生えています。
ヒラタアブラムシ亜科
頭部と胸部がほぼ一体化、無翅型は複眼を持ちません。
無翅型は扁平でカイガラムシに似た形状をしており、腹部背面全体が角質化しています。
有翅型は翅を寝かせて畳むので一見ハエ類のように見えます。
ヒラタアブラムシ族,ツノアブラムシ族,ムネアブラムシ族の3族に分けられ、国内では63種が生息しています。
ムネアブラムシ族
広葉樹(コナラ類,シイノキ類,イスノキ類など)を寄主とするグループです。


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ツノアブラムシ族
広葉樹(エゴノキ類,ホウライチク類など)からイネ科に寄主転換するグループです。


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ヒラタアブラムシ族
マンサク類からカバノキ類に寄主転換するグループです。
ワタムシ亜科
有性世代では口吻を持ちません。
皮膚は柔らかく、通常白色ロウ質物で覆われています。
タマワタムシ族,チチュウワタムシ族,ワタムシ族に分けられます。
国内では55種が生息しています。
タマワタムシ族
広葉樹から草本に寄主転換するグループです。


チチュウワタムシ族
ウルシ類からイネ科,コケ類などに寄主転換するグループです。
 

 
    天敵
 
アブラムシの天敵はテントウムシの成虫と幼虫、ヒラタアブ類の幼虫です。
基本的にアブラムシは逃げるのではなく、数を増やすことで対抗しています。
また、種類によってはソラマメヒゲナガアブラムシなどのように振動などを感じると自分から落ちて身を守るものもいます。

ナナホシテントウ
テントウムシ類は成虫・幼虫共にアブラムシを主食としているものが多い。

コモチシダコブアブラムシを捕食するクロヒラタアブの幼虫
食欲旺盛でコロニーが壊滅されることもある。
 

 
    アリとの共生
 
アブラムシは角状管から出す甘露をアリに提供する代わりに、天敵であるテントウムシやヒラタアブの幼虫をアリに追い払ってもらうことで共生関係にあると言えます。
特にクチナガオオアブラムシの仲間はアリが作った蟻道の中で生活しており、アリがアブラムシを飼育しているといってよいほどの関係にあります。

トビイロケアリが群れるワタアブラムシのコロニー
アリはアブラムシから甘露を貰う為に天敵を追い払う。

ヤノクチナガオオアブラムシから甘露を受け取ったアリ
蟻道内で大切に守られ完全な共同生活を行なっている。
 

 
    害虫としてのアブラムシ
 
一般的にアブラムシは害虫の代表格として知られています。
アブラムシがたくさん増えることによる植物の萎縮の他、植物ウイルス病を媒介することで重要害虫とされています。
ただ、アブラムシは1匹1匹は大変弱い虫で、牛乳をかけるだけでも窒息してしまうことで薬品を使わない駆除も可能です。
ただし、アブラムシが問題になるのは人為的に栽培した植物であり、自然界においては生態系の一部として植物や他の昆虫類と上手く共存しています。

ユリ科のヘメロカリスに寄生するキスゲフクレアブラムシ

キョウチクトウに寄生するキョウチクトウアブラムシ
 

 
    繁殖力の秘密
 

産仔中のジャガイモヒゲナガアブラムシ
この時点で幼虫の体内には孫に当たる幼虫が既に入っています。
アブラムシはわずかな期間でおびただしい数になるほどの繁殖力があります。
その秘密は、1つは単為生殖で交尾が不要であること、もう一つは親虫の体内の幼虫に、既に孫となる幼虫が入っているという入れ子構造になっているという点です。簡単に言うと昆虫版マトリョーシカです。
また小型であるという点も成虫になるまでの期間が短くて済みます。
これらの仕組みがアブラムシの繁殖力の秘密と言えるでしょう。
 

 
    同定のコツ
 
アブラムシは種類が多い分、似ている種類も多くいます。
同定する際の主なポイントをご紹介します。
寄主植物の種類
まず、アブラムシがいた植物を知ることでアブラムシの種類を絞り込むことができます。
ただし、たまたま飛んで来た有翅型である可能性もありますので、単独ではなく、コロニーを作っている場合が適しています。
また、虫コブを作る種類は虫コブの形状で種類が分かるものもいます。

キンミズヒキに寄生するキンミズヒキフタマタアブラムシ
寄主植物の名前が入っているアブラムシも多い。

イスノオオムネアブラムシの虫コブ
種類によって寄主植物の種類や虫コブの形状が異なります。
斑紋
斑紋のある・なしや斑紋の形状も同定の重要な手がかりです。
有翅型の場合は翅紋のある・なしで同定できることもあります。
キンミズヒキフタマタアブラムシのように翅脈の形状で同定できる場合もあります。

コミカンアブラムシの有翅型
黒色の翅紋がある。

ミカンクロアブラムシの有翅型
翅紋がない。
各部の特徴
各部の形状や長さが同定の手がかりとなります。
例えば、角状管の長さや太さ、尾片の形状、触角の長さ、体毛のある・なし及び形状などです。

アザミクギケアブラムシ
毛先が太い体毛が特徴。
触角は体長と同等であることや角状管は細く長いことが確認できます。

タデヨツメヒゲナガアブラムシ
扁平な体型と頭部前方の指状突起が特徴。
尾片は太く、触角は短いことも確認できます。
ステージの確認
幼虫か成虫かの確認も必要です。大抵複数の個体が集まっていますので、親と思われる個体を見つけると同定しやすいと思います。また、捕食されたり、飛んで行ったりして親がおらず、幼虫だけになっているコロニーもありますので、その場合の同定は注意が必要です。植物毎持ち帰り、成虫になるまで飼育するのも有効な手段ですが、環境破壊しないように注意してください。
また、同じ幼虫でも有翅型の幼虫は翅の元となる翅芽があり、無翅型とはかなり体型が異なります。

ジャガイモヒゲナガアブラムシの有翅型の幼虫
翅はない(翅芽のみ)が無翅型とは体型が異なる。

シダコブアブラムシの1齢幼虫
若齢幼虫ほど体色が淡く、特徴が不明瞭なので、同定は困難です。
 

 
    最後に
 
アブラムシは私が特に撮影してきた昆虫の一つで、虫ナビで多種のアブラムシを見ることができます。
しかし、まだまだ撮影していない種類もあり、更に1種類に対して様々な形態が見られるので、大変奥が深く観察対象として面白い昆虫だと思います。
また、アブラムシを知ることで寄主植物にも詳しくなることでしょう。
少しでもアブラムシに興味が出てきましたら、身近な植物からどんな種類のアブラムシがどの時期に見られるのかを調べたり、見たい種類のアブラムシを探してみたりして楽しんでみてください。
 
 
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