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  サソリモドキ累代飼育マニュアル
 

タイワンサソリモドキ
日本に生息する2種のうちの1種。
 
私が石垣島で採集したタイワンサソリモドキの♀を飼育した記録より、飼育法をご紹介したいと思います。
 
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    サソリモドキとは
 
サソリモドキはクモやサソリに近い仲間で、クモ網のサソリモドキ目サソリモドキ科に属します。
夜行性で日中は森林周辺などの石や倒木の下などに隠れています。
暗灰色の体色にがっしりとした太いハサミ(触肢),細長い第一脚、細長く伸びる肛門腺を持っています。
それでいて、クモのように脚を自切することもないので、採集個体でも未だ完品しか見たことがないほどです。
採集した限りでは、一つの石に複数いることはなく、大きい石になるに従い、大型の成体が隠れていました。
腹部先端にある肛門腺から強烈な酢の匂い(蟻酸酢酸が主成分)を出して身を守るので、毒はありませんが目に入ると危険な為、注意が必要です。
 
飼育は至って簡単で、乾燥に注意すれば長くペットとして楽しむことができます。
雌雄判別

♂の触肢
♂では触肢の脛節にある突起(桿状突起)が長く強く湾曲する。
触肢自体も♀より大きい。

♀の触肢
触肢の脛節にある突起(桿状突起)は湾曲しない。
 

 
    成体の飼育
 
飼育ケース

飼育ケース
ゆとりがあり、個体数分の棲家、餌が豊富なら共食いすることはありません。多湿を好むので、小まめに霧吹きで湿気を保ちます。念のため、私は空中湿度を高めるため、小さな容器にミズゴケと水を入れています。ミズゴケは万が一、本種が溺れないようにするためのもの。無くても飼育可能。
成体の体長は5cm程で、単独飼育では中プラケース、2匹飼育では大プラケース、3匹飼育では特大プラケースで飼育可能です。過密になると肛門腺を切られたり、最悪共食いしてしまいますので、ケースは大きいほど安全です。
本種は乾燥に弱いので、湿度を保つため、保湿シートや保湿板などの中蓋をするといいでしょう。ただし、蒸れないよう注意してください。
夜行性なので、昼間は隠れていて見えませんが、夜マット上を徘徊しているところが観察できます。
マット

ピートモス
ピートモスは保湿性に優れ、コバエも発生しない。
100円ショップなどで手軽に購入できる。大体2L100円,4L400円程度。
ピートモスが最適。マットに潜りますので、5cm程敷くと良いです。いつも表面が濡れているくらいの湿気を保ちましょう。
隠れ家
石を入れます。石の下に住み着きますので、できるだけ大きめのものを個体数分入れてあげます。
水分
多湿を好むので、常時じめじめしている状態を保ちましょう。水の入れた小さいケースを入れて空中湿度を高めるのもよい方法ですが、本種や生き餌が溺れないようにミズゴケを入れるなどの工夫が必要です。
飼育温度
南方系の種ですから、温度は高いほうが調子は良いと思われます。夏場は30℃以上あるほうが本種にとっては調子が良いと思いますが、閉め切った部屋などに放置すれば当然40℃以上になってしまい危険ですので、極端な高温には注意しましょう。
冬場はまだ飼育経験がないので推測になりますが、10℃を下回らない程度に管理できれば大丈夫と思われます。ただ、エサは与えないほうが無難です。というのは、低温になって消化できなくなると死んでしまうことがあるからです。
 
外国産のサソリモドキに関しては不明ですが、低温に弱いことだけは確かですので、冬場でも20℃以下にならないように飼育したほうが無難です。
エサ
エサは生きたものを与えます。ダンゴムシやコオロギ、ヤスデの仲間、バッタなど何でもよく食べます。特にダンゴムシはどこにでもいますので、餌に困ることはないと思います。
本種の鋏は立体的なので、ダンゴムシのような固く丸くなるような虫でも双方の鋏でがっしり捕らえることができます。
栄養価の面では、ダンゴムシだけでは偏る可能性がありますので、時々でもいいのでコオロギやムカデ等を与えてみましょう。
餌は成体であれば週1回でも飼育可能なようですが、1,2日に1回1匹与えるのがよいと思われます。
 

 
    繁殖
 
交接
野外採集の♀の成体であればまず交接済みであることがほとんどです。
しかし、幼体から飼育した場合は、交接させる必要があります。
交接に関しては未経験の為、憶測になりますが交接させる場合は成体になってから3ヶ月〜半年くらい単独飼育を続けて十分に成熟させておくことですんなりと交接させることができると思います。
ただし、共食いの可能性がありますので、十分に餌やりをした上で交接させます。
考えられる方法としては、大きめの飼育ケースで仕切り板で雌雄を隔離した状態で自分の棲み家を見つけて落ち着いてから、仕切り板を外して交接させるのがよいと思います。夜行性ですので交接を観察するのは難しいと思われます。
抱卵
卵塊
ケース底面からケース越しに観察できる。
成体で採集した天然物の♀であれば、交接済みであることが多く、しばらく飼育しているとやがてマットに潜り、抱卵します。
しばらく姿が確認できず、餌が食べられていない場合は、抱卵の前兆と考えていいです。
抱卵したかどうかはケース底面から確認できることが多いようです。親の腹部の下に白い卵塊を見ることができます。
原因は分かりませんが、卵を落として失敗する場合もあるようです。これは親がストレスによって卵を破棄するのか無精卵だったからなのかは不明です。
卵の破棄の可能性が考えられる以上、この時の親を掴んだり刺激させずに、そっとしておきましょう。
抱卵の期間は長く、1ヶ月半ほどかかります。その間、親は一切飲まず食わずでじっとしています。
孵化
抱卵より1ヶ月半ほどもすると卵が孵化し、丸々とした1齢幼体が腹部にくっついています。これらの生態はちょうどアメリカザリガニのような生態によく似ています。
更にそのままの状態で、1ヶ月近くすると、脱皮して2齢幼体になります。2齢幼体になると色や姿が親そっくりになります。脱皮と同時に腹部からは離れますが、親の近くに群れており、少なくとも2週間は捕食はしません。
親離れしだしたら親か幼体のどちらかを隔離して、親による幼体の捕食を防ぎます。

孵化した1齢幼体
丸っこい体形をしており、まだ腹部から離れない。

脱皮直後の2齢幼体
2齢幼体になると、親と同じ体形になり、親の周りを歩くようになる。
 

 
    幼体の飼育
 
飼育環境
多数の個体を同時に飼育することになりますので、隠れ家は多くしたほうが良いでしょう。
その他の環境は成体飼育時と同じです。共食いの危険は飢えさえなければ一切なく、広いケースに入れておいても、すべての個体が固まって潜んでいるほど仲が良いです。ただし、肛門腺が切られてしまう事故も度々見られますのでなるべく餌不足にならないように注意しましょう。切られた肛門腺は脱皮時に再生するようです。
親同様、多湿を維持しましょう。
胡麻粒サイズのイエコオロギの幼虫、ダンゴムシワラジムシの幼体が適しています。
餌切れしてしまっても、ミルワームをスライスしたものなど、虫類の肉片を与えてもいいです。
基本的には生き餌を与えますが、死んで間もない虫も新鮮なものであればすぐに反応して食べますので餌やりは大変楽です。
ただし、臆病ですので目の前で捕食を観察するのは難しいです。
脱皮
2齢以降の脱皮はマットの下に潜り、部屋を作って行なわれます。
過密でない限りは脱皮中の個体が食べられるようなことはないようです。
齢を重ねる毎に部屋に篭っている期間は長くなります。これは脱皮後の柔らかい体が固まるまで時間が掛かる為ですので、掘り返さないように注意が必要です。ケース底面から部屋の中が見える場合がありますので、真っ白い個体が見えた場合は脱皮直後であると判断できます。
飼育した限りでは6齢で成体となり、生育期間は1年2,3ヶ月程でした。
成体になると、一際大きく、ハサミの特徴も顕著になりますので、一目で分かると思います。

幼体飼育ケース
石を複数入れてあるが、ほとんど一つの石の下に群れている。

2齢幼体
体長は1cm程。

群れる2齢幼体
石を退けたところ。

コオロギを捕食する2齢幼体

3齢幼体

4齢幼体

5齢幼体

成体
 

 
    最後に
 
本種は国産サソリに比べて大きい分、幼体の餌やりも楽で、特に難関といったステージも無く、飼育した限りでは本当に簡単です。
このマニュアルはタイワンサソリモドキを飼育した経験を元に作成しましたが、南西諸島にいるもう一種のアマミサソリモドキについてもまったく同様の方法で飼育可能と思われます。
北アメリカ産のテキサス・ジャイアント・ビネガロンも飼育してみましたが、多数の幼体を得ることはできたものの、こちらは気性が激しく、国産種に比べると共食いが多く、複数同時飼育は困難でした。
多数のサソリモドキやサソリの飼育では、一番の問題は餌代でした。逆に言えば餌さえ不自由しなければ飼育は簡単であるとも言えます。
しかし、何よりこの奇怪な容姿を持つサソリモドキはとにかくカッコいいのです。特に♂の成体のハサミは大きく迫力満点です。
写真では伝わりにくいのですが、国産とは思えないほど大型になり、サイズにおいては国産サソリの比ではありません。
機会があれば是非飼育に挑戦してみてください。
 
 
 
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